2012年7月27日金曜日

子どもたちへ1.友人を守るために

大津のいじめ自殺がマスコミに取り上げられて以来、他地域でもいじめ問題が相次ぎ明るみに出ている。折しも夏休み、子どもたちは「いじめ」について、改めて考えを巡らせていることだろう。



今回から、いじめの「傍観者」「被害者」「加害者」へ向け、3回にわたりメッセージを掲載する。思索を深める一助になればと願う。



*出典は拙著『大人が知らない ネットいじめの真実』
既に読まれた教員の方からは、「道徳の授業で使いたい」等の御連絡を頂いている。
新たに引用されたい方も、ご一報下されば幸いである。
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 <2.いじめられている人へ <3.いじめている人へ







子どもたちへ1.友人を守るために



 あなたの大切な友人がいじめられたら、どうすればいいのだろうか。その人の悲しみを思うと、辛いことだろう。あなたにも出来ることはある。



 最初は、その人がいじめられているのかどうかは、よくわからないかもしれない。あなたの目には、ただの悪ふざけに映るかもしれない。だが、やられている方は顔が笑っていても、心で嫌がっているときがある。友人がふさぎ込んだり、口数が少なくなったり、いつもと様子が違ったりしたら、「どうした」と声をかけてみよう。その人は最初、「何でもない」と言うかもしれない。いじめられているのを知られるのは、恥ずかしいのだろう。ちっとも、恥ずかしいことではないのだが。二人きりになってじっくり話を聞いてみよう。そのうちきっと、悩みを打ち明ける。本当はあなたに、気づいて欲しかったのだ。



 いじめを受けている人の心は、弱っている。悪口を言われて、自信を失くしていることだろう。でも、いじめの標的になるのは、その人が悪いからではない。どんな性格や外見であろうと、いじめられても仕方がない理由にはならない。加害者は、自分の方が他人より上に立ちたくて、一生懸命いじめる口実を作る。理由は何でもいいし、相手は誰でもいいのだ。



 だから、「私はあなたのことを何も悪く思っていない」と友人に伝えよう。「大丈夫、私がいるから」と、弱った心を支えてあげよう。



その人とは、いつも一緒にいるようにする。学校の休み時間や下校のとき。その人は、いついじめられるかとビクビクしている。一人にさせないようにして、加害者に、いじめる隙を与えないのだ。ネットの掲示板上やメールで誹謗中傷を受けているのなら、その内容を見せてもらおう。もしその子が嫌でなければ。一緒に受け止めてあげることで、辛さは半分になる。



その人といると、あなたもいじめられるだろうか。本当は加害者に「止めろ」と言いたいのに、先生に報告したいのに、自分もやられるのが怖くて出来ないかもしれない。だが、一人の加害者によるいじめ行為を、他のクラスメートみんなが見て見ぬふりをしたらどうだろう。周りで笑ったり、はやし立てたりしたらどうだろう。被害者にとっては、クラス中の全員にいじめられているのと同じだ。いじめという「ショー」において、傍観者は観客である。主人公の加害者は、観客の視線と拍手を背中に感じ、ますます張り切っていじめる。被害者は、いじめられる姿を観客の目にさらされることで、より深い苦痛と惨めさを味わう。



 



あなたが一人で加害者に立ち向かうのは、確かに簡単ではない。ならば、他の傍観者たちと一丸となってはどうか。「みんなでやれば怖くない」である。周りの人に、味方になってくれるよう頼もう。ただし、あなたが一人でいきなり傍観者集団に声をかけても、鼻先であしらわれるのが関の山だろう。多数派に安住していたいのが人間の心理だからだ。ポイントは、傍観者と「一人ずつ」話をしていくことである。傍観者も実はそれぞれ、後ろめたさを抱えている。あなたの友人がいじめを本当に嫌がっていること、皆で守ってあげたいことを伝えれば、きっとわかってくれるはずだ。名付けて、「個別懐柔作戦」。








ノルウェーでは、学校の教室全体で、いじめを許さない雰囲気作りに取り組んでいる。いじめ研究の第一人者が開発した「いじめ防止プログラム」に基づくものだ。生徒たちは次の四つのルールを習う。



・「私たちは、いじめをしない」
 ・「私たちは、いじめられている人を助ける」
 ・「私たちは、取り残された人を仲間に入れる」
 ・「もし誰かがいじめられているのを知ったら、私たちは先生と親に言う」



 学校は定期的に各教室でいじめに関する授業を行ない、生徒たちはいじめに対する自分の意見や、なぜいじめてはいけないのか、どうすれば減らすことが出来るかを話し合う。教師は、いじめに対応するための専門的な研修を受ける。保護者も学校単位と教室単位のミーティングに参加し、いじめの被害者と加害者が抱える問題や、学校がどう取り組もうとしているかを学ぶ。



 このプログラムは、ノルウェー政府の予算で国中の小中学校に導入されただけでなく、アメリカやイギリス、ドイツでも利用されている。生徒たちは教室内のいじめ行為に厳しい目を向け、被害者をかばうようになり、いじめは三〇%から七〇%減少したという



 いじめは多くの場合、先生の目の届かないところで起きる。いじめの芽を最も早くつめる立場にいるのは、あなたたち生徒だ。ノルウェーのように、教室全体でいじめに取り組むことを先生に提案してみてはどうだろう。それに子どもは、大人よりも子どもの言うことを聞くのだから。



 一方ネット上のいじめであれば、表向きは匿名として書き込むことが出来るので、あなたもかばいやすいだろう。身近な友人はもちろん、掲示板やSNSで知り合った面識のない「友だち」も、ネットいじめに遭うことがあるかもしれない。プロフのゲストブックに悪口を書き込まれたり、掲示板に実名を出されたり。そんなときあなたが出来るのは、決して同調したり、煽ったりする書き込みをしないということだ。「私も○○はウザいと思う」とか、「○○の写真貼ってよ」などと閲覧者(=傍観者)たちがけしかけると、いじめる人は調子に乗って誹謗中傷をエスカレートさせる。



 逆に、「止めろ」と書き込んでみよう。一人だけで止めようとしてもあまり効果はないので、ハンドルネームを使い分け、あたかも多数の人がいじめに反対しているように見せかける。ある学校裏サイトでは、特定の生徒が悪口の攻撃を受けていたが、他の生徒たちが加害者に向けて「こそこそ悪口言うのは止めなよ」「セコい奴」などと何度も書き込んだことで、おさまった。子どもたちの間で、自浄作用が働いたのである。また、被害者にメールなどで直接連絡をとり、相談にのるのもいい。あなたの一言が、いじめられ心細くなっている友人を、勇気付けるのだ。






<2.いじめられている人へ <3.いじめている人へ





1



出典:
 渡辺真由子 著

 
『大人が知らない ネットいじめの真実』



 



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2012年7月17日火曜日

いじめを減らすには~被害者イメージの改革&加害者ケア 【大津市いじめ自殺】

大津市いじめ自殺を特集した12日のテレビ朝日「モーニングバード」は
通常よりかなり高視聴率で、私の解説部分が最高視聴率を記録したとのこと。
皆がこの問題の行方を注視しているのだろう。



今回のケースでは
学校や教育委員会の不手際にばかり目がいきがちだ。
だが、「いじめをどうすれば減らせるか」の議論も
同時に行わなければ、この種の問題はまた起きる。



いじめ減少へ向けて、
14年間いじめ自殺事件の取材を続けている経験から
私が提案するのは次の3点。
1.学校・教員に対する評価の仕組みの変更
2.いじめ被害者に対する大人の意識改革
3.加害者ケア



1について、
学校側がいじめの隠ぺい工作に走るのは、
いじめを発生させたことに対し
「指導力不足」などの減点評価が下されるのを恐れるからである。
だが、いじめはどの学校でも起こり得るもので、
この評価は全く現実的でない。
いじめの発生件数にとらわれるのでなく、
「いじめにどう対応したか」を評価のポイントにすべきだ。
文科省が音頭をとって、仕組みの変更に取り組んでもらいたい。



2について、
いじめ被害者が周囲に相談しないのは
「いじめられっ子」に対するネガティブなイメージのためである。
「いじめられる=弱い、情けない、惨め」といったイメージが、
文科省の過去のいじめ定義や、年配の国会議員、
メディアに登場する年配男性コメンテーター等によって流布されてきた。

子どもにもプライドがある。
自分が「恥ずかしい奴」になり下がったことを、
どうして親や友人や教師に知られたいと思うだろうか。

大津市の件では
教員がいじめを認識しなかった理由として、
被害生徒が「大丈夫です」とか「いじめられていません」と答えたことを
挙げているようだ。
だがこれは、被害生徒が必死で自らの尊厳を保とうとしたのだと
私には感じられる。
自分が「いじめられっ子」であることは認めたくないし、
周りからもそんな目で見て欲しくない。



「いじめを受けることは弱くも恥ずかしくもない。
いじめる者こそが、攻撃欲求を抑えられない弱くて恥ずかしい人間なのだ」
という認識をまず親や教師が持ち、子どもに徹底して伝える必要がある。



では、いじめる者への対策をどうしたらいいのか?が
3の「加害者ケア」である。

いじめる子どもこそ、実は深刻な問題を抱えている可能性がある。
ある調査では、「家庭内での親子コミュニケーション」と「いじめ加害経験」に
関連性があることが明らかになった。
学校ではいじめ加害をする者が、別の場では被害者になっていたり、
何らかの理由で「自己肯定感」が育まれていないことも考えられる。



さらに「心の教育」も必要だ。
過去のいじめ自殺の事例でも、いじめた側は自分の行為を「冗談だった」と語った。
自分がされたらどうなるかという想像力が、子どもの心に育っていないという現実に
親や教師は向き合わねばならない。



いじめ加害者を生みださない対策として、
国内では「自分の感情をコントロールする」教育を実践したり
海外では「差別の理不尽さ」を体験させる教育を実践したりする
ケースがある。





こうした「加害者対策」を、
もっと広く取り入れていくことが、
いじめを減らす上で極めて重要だ。
加害者がいなければ、
いじめは存在しないのだから。

拙著『大人が知らない ネットいじめの真実』でより詳細に述べている。



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2012年7月12日木曜日

大津市いじめ自殺、警察強制捜査の意義

今朝のテレビ朝日「モーニングバード」は
大津市の中2いじめ自殺を特集し、
私もコメンテーターを務めた。



中学校や市教委に警察が家宅捜索に入った背景や、
第3者委員会を立ち上げる際に注目すべきポイント等をお話。



さて、
警察がようやく動き出したことで、
今後の焦点の1つは「加害生徒を立件するか否か」になる。



立件する場合、遺族が真実を知る道は大きく開く可能性がある。



2008年に少年法が改正されたことにより、
加害者が12歳以上であれば罪の内容次第で、
家庭裁判所が少年審判の傍聴を被害者側に許可し得ることになったのだ。



加害少年の事件記録についても、2000年の法改正以降、
原則として閲覧やコピーが出来るようになった。



私がいじめ自殺事件の取材を始めた14年前は、
少年審判は原則非公開。
遺族たちは、子どもの身に起きた真実を知るために、
それこそ事件記録を見るためだけにも
裁判を起こさなければならなかったのだ。



あれから月日が流れ、
被害者を取り巻く司法環境は確実に変わってきている。
今後の警察の対応を見守りたい。






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2012年7月10日火曜日

ニコ生で「いじめ自殺」特集番組

ネット番組「ニコニコ生放送」が
いじめ自殺をテーマに特集を組んだ
私も、いじめ自殺事件の取材を続ける立場から出演。



大津市の問題をはじめ、
続発する深刻ないじめに
学校側はどう向き合えばいいのか?
被害者が自分を守るために出来ることは?
といった点を議論した。



番組に寄せられたコメント数は9万件以上、
視聴者数も4万人以上と通常の番組より非常に多く、
普段ニコ生を見ない方々の参加も目立ったそうだ。



いじめはそもそも「加害者を生み出さない」ことが何より大事であると
私は考えている。
そのための「教育」や「加害者ケア」のあり方についても議論したかったが
残念ながら時間切れ(っていうか番組延長で23時を回り若干燃料切れ)。
また機会があればお話したい。
これらの点については、
拙著『大人が知らない ネットいじめの真実』でも詳しく述べている:



 



1_2






私がニコ生に出るのは今回が初めて。
ニコ生の最大の特徴は、
画面にリアルタイムで視聴者のコメントが流れてくることだ。
出演する者としては、それらをどんどん生放送のトークに反映させられる利点があるが、
一方でややもすれば思考が散漫になったり、
「視聴者に気に入られるような発言」をしたくなる誘惑に駆られたりと、
テレビとは異なる難しさがある。



ニコ生の会員は、約7割が10代~20代とのこと。
新聞やテレビなどの従来メディアの権威に反発する若者たちにとって
ニコ生は拠り所であり、「自分たちの味方だ」と感じている印象を受けた。
今後、「若者の声に寄り添うメディア」として
既存のマスコミとの棲み分けが更に進むのではないだろうか。注目したい。



ちなみに今回のように
急遽メディア出演が決まる場合は、
ブログでお知らせする暇がないため
ツイッターフェイスブックで告知する。
アカウントを持っていないあなたは
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2012年7月7日土曜日

いじめ自殺 親のそれから(後編)

『いじめ自殺 親のそれから~8年かけて見えてきたこと』(後編)
(AERA 2007年3月5日号。肩書、年齢などは当時)
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前編



8年前の事件以来、和子さんは1日3時間ほどしか眠れない日が続く。夫の秀樹さん(56)は何もする気力がわかず、家にこもるように。息子の自殺に加え、後に裁判に踏み切ったことが、夫婦の気力と体力を完全に消耗させた。訴訟費用を工面するために、保険を解約して、借金もした。



「裁判を起こすってものすごく勇気がいることなんよ。時間も気力もお金もかかるし、地域の好奇の目にさらされるからね」



 文科省が、問題点を開示する方向でマニュアルを作れば、裁判を起こさなくても済むのでは……。
 遺族が最も望むのは、子どもが死を選ばねばならなかった真相の究明だ。しかし、学校や教育委員会が調査をするのでは、どこまで真実に迫れるのか疑わしい。




【筑前町は第三者が調査】



 その点、筑前町では一歩前進があった。町の教育委員会は11月に、学者や、児童相談所長、保護司ら、7人からなる第三者の調査委員会をつくった。遺族の参加はかなわなかったが、この委員会が、校長、遺族から話を聞き、教職員と生徒にはアンケートを実施して、12月に報告を発表した。その報告は、今後はすぐにこうした調査委員会を立ち上げるよう、提言している。



 同級生だった加害少年たちのことも考えて思い悩む美加さんに、和子さんは「いい人になろうとせんでいいんよ」と話した。



 一方で和子さんは自分の体験から、法廷で争った結果として加害者側から責任と謝罪を引き出しても、何も残るものはないと思う。遺族側と加害者側が、直説対話できる場もあれば、と思う。



「自分がやったことの重大さを理解させ、親にも、子どもの心がなぜそんな風に育ったのか自省する機会にしてもらわんと」



 子どもの「心」を育てないと、いじめの抜本的解決にはならない。それがいまの和子さんの結論だ。洵作さんの時も啓祐さんの時も、いじめた側は自分の行為を「冗談だった」と語った。自分がされたらどうなるかという想像力が、子どもの心に育っていないのだ。



「文科省は、教育にもっとお金をかけてほしい。現場の教師の声を吸い上げてほしい。そして何より、『相手を思いやる心』の育成に取り組まんといかん」



 洵作さんは柔道、啓祐さんは空手にたけていた。しかしその力を、人を傷つけるために使うことはなかった。



「相手の痛みがわかるから、いじめの標的にされても、けんかには応じん。弱いんじゃなくて、優しかったよ。優しい子が死なんといかん社会はおかしい」




【子どもの心を育てたい】



 昨年11月に開かれた、参院文教科学委員会。伊吹文明文科相はこう言った。



「いじめられる側にも、その子どもの性格などに起因するものが全くないとは言えない」



それなら子どもはいくらでも理由付けをする。あぜんとした。



「人はみな違って当たり前やき。それをいじめの口実にさせるんじゃなく、多様性を認め合うことを教える。それが心の教育と思うよ」



 この8年間、息子には「守ってあげられなくてごめんね」と、謝ってばかりいた。いまは、遺影にこう語りかける。



「洵くん、子どもたちの心を育てないかんよね。あんたのような犠牲者は、二度と出したらいかん」

 

取材・文 渡辺真由子




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いじめ自殺 親のそれから(前編)

大津市いじめ自殺問題の発生を受け、
私が以前アエラに寄稿したルポを緊急公開する。
あなたがこの問題を考える参考となれば幸いである。
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『いじめ自殺 親のそれから~8年かけて見えてきたこと』(前編)
出席停止に教員免許更新制。
福岡県筑前町の事件などをきっかけに、「対策」が積み上がる。
だが、いじめと向き合い続けた母が見た学校は……。
(AERA 2007年3月5日号。肩書、年齢などは当時)
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「優しくするということを、ぼくは下の人たちにしてあげて、その下の人たちがその下の人たちにしてくれたら、みんな幸せになると思います」



 2月10日にNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」などが東京で開いた、いじめを考えるシンポジウム。福岡県筑前(ちくぜん)町から参加した森美加(もり・みか)さん(36)は、昨年10月にいじめを苦に自殺した町立中学2年の長男、啓祐(けいすけ)さん(当時13歳)が小学校の卒業文集に残した言葉を紹介した。



 ジェントルハートは、いじめなどで子どもを亡くした親たちの会。子どもたちが遺したメッセージを伝えることで、優しさを広げていじめをなくそうと活動している。美加さんはこのシンポで初めて息子の名前と顔を公開して、話した。



 シンポの3日前、美加さんは自宅から車で40分ほど離れた福岡県飯塚市に住む、古賀和子(こが・かずこ)さん(56)宅を訪ねた。手には、柔らかなピンクのチューリップが25本。和子さんの長男、洵作(しゅんさく)さんは、生きていれば1月に25歳の誕生日を迎えるはずだった。




【もう見たくない】



 1998年のクリスマス。飯塚市の私立高校2年生だった洵作さん(当時16歳)は、同級生6人から「パーティーに女を連れて来られなければ60万円を払え」と執拗な脅しを受けて、自らの命を絶った。6人とその親は責任を認めず、学校は全校生徒に実施したいじめについてのアンケート原文を、遺族に見せる前に焼却した。



 遺族は加害少年側と学校側を相手に、裁判に踏み切る。両者が責任を認めて遺族に謝罪し、和解したのは、2000年のことだ。
 いま和子さんのもとに、美加さんが足しげく通う。
「色々と相談にのってもらって、心強い。私たちが頑張れるのは、8年前に和子さんたちが闘ってくれたおかげ」



 和子さんは初め、美加さんに会うつもりはなかった。息子の死から8年。まだ、いじめ自殺は繰り返されるのか。ニュースに接すると、激しい怒りがこみあげて、「いじめ」の「い」の字すら見たくなくなる。いったいどこが、この責任をとるのか。
 しかし、啓祐さんの自殺から2カ月後、ジェントルハートのメンバーを通じて偶然に、和子さんは美加さんに会った。



「変わらない」元凶がどこにあるのか、この8年間で、和子さんには少しずつ見えてきた。
「対症療法に終始して、子どもの苦しみに正面から向き合わん文部科学省のツケよ」
 そう言い切る。



 「おかしい」と最初に感じたのは、洵作さんの死から2年が過ぎた頃だった。当時の文部省による公立学校児童・生徒の自殺者数統計を見ると、いじめが原因とされる自殺の件数が、ゼロ。一方、原因が「その他」は106件で、全体の6割以上を占める。



「その他」の中身を明らかにして欲しいと、和子さんは02年、要望書を手に上京した。いきなり文部省を訪ねると、暗い廊下で対応した職員は和子さんの話を聞くだけ。要望書も受け取らなかった。3年通ったが、いつもたらい回しにされて終わった。




【誰がための175項目】



文科省が今年1月になって、99年度以降7年間ゼロとしていたいじめ自殺の数を修正したが、
「学校の先生だって、統計がおかしいことは知っとったはず。でも、指摘できんかったんやないか」



 現場の教師は、声を上げにくくなっている。それがわかり始めたのは、事件後やめていた保険外交員の仕事を、06年4月に再開してからだ。顧客は、地元の学校の教師たち。彼らがいじめ対策でがんじがらめにされている姿を、目の当たりにした。



 福岡県教育委員会から配られた「いじめ早期発見のチェック・リスト」は、児童・生徒と教師自らを見直すポイントが、合わせて8ページ、175項目にも及ぶ。
 さらに文科省は昨年10月、学校と教育委員会に対し、44項目にわたるチェックポイントを通知した。



「たださえ忙しいのに、とてもこんなに一人づつチェックできん」
 ある教師は和子さんに訴える。だが、不適格教員の烙印を押されかねないので、不満は言えない。
 現に福岡県教委の詳細なリストは、筑前町の啓祐さんの中学では、使われていなかった。

「『これだけ配慮しました』という既成事実を作りたいだけ。このやり方では現場は萎縮するばかりよ」



 政府の教育再生会議が1月の第一次報告に盛り込んだ教員免許の更新制についても、教師が上司の顔色をうかがって、ますますいじめを報告しなくなると危惧する。



続く





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2012年7月6日金曜日

大津市いじめ自殺問題には第三者調査委員会の設置を

私が14年前から取材を続けている
福岡県飯塚市のいじめ自殺事件の遺族から、
連絡が入った。



「大津市には、第三者調査委員会を設置せなダメばい」



第三者調査委員会とは、
学校や教育委員会からは独立した第三者の
有識者らにより構成され、
中立・客観的な立場での調査を実施する機関である。



現在の、教育委員会が主体となった調査だけでは
様々な利害関係に縛られ、
真相が解明されることは到底期待できない。



第三者調査委員会はこれまで、
福岡県筑前町の中2男子いじめ自殺事件(2006)や、
追手門学院大学のインド人男子学生いじめ自殺事件(2007)、
群馬県桐生市の小6女児いじめ自殺事件(2010)などで
設置されている。

調査の結果、
自殺がいじめによるものと認められれば、
「災害共済給付制度」に基づき見舞金を受け取ることも可能だ。

この制度は、文部科学省の外郭団体である「日本スポーツ振興センター」が運営。
学校外で発生したいじめ自殺は、かつて見舞金給付の対象外だったが、
2007年の省令改正により、現在は対象に含まれている。


なお、
せっかく第三者調査委員会を設置しても、

構成メンバーや議事内容を非公開とすれば
「学校側に都合よく利用されるのではないか」との
遺族の不信を招きかねない。
少なくとも遺族に対しては、透明性を確保し、
意見を述べる機会を設けるべきだろう。

遺族たちは、最初から裁判を望んでいるわけではない。
「なぜ我が子の人生が断ち切られたのか」を、何より知りたいのだ。
遺族の思いに応えるための、
市側の迅速な対応が求められる。



⇒【関連】「いじめ自殺 親のそれから~8年かけて見えてきたこと





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